スティーヴン・キング好きの読書日記
ランゴリアーズ ランゴリアーズ
スティーヴン・キング、小尾 芙佐 他 (1999/07)
文芸春秋
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国際線の機長ブライアンが、東京-ロス間のフライト後、離婚した妻の訃報を聞き、疲れた体でロス-ボストンの飛行機に乗り込む。
離陸後すぐに熟睡したブライアンは少女の甲高い悲鳴に眼を覚ます・・・そこで彼が見たものは。
数名の乗客を残し、乗務員もパイロットも居ないほぼ無人の機内だった。
乗客が居たはずだった座席には、彼らの腕時計や歯の詰め物、宝石などが転がる。
人の気配の無さを感じて悲鳴を上げていた盲目の少女をなだめに行ったブライアンはひとつの疑問を持つ。
「この機は誰が操縦してるのか?」。
嫌な予感を感じつつコックピットへ向かうブライアン。そして予想通り、機体は自動操縦で飛行していた・・・。

盲目の少女ダイナが回りに人が居ないことに気づき、徐々に不安を募らせていくくだりで、その現象があり得る事だと思えてしまうマジック。

乗客11名を残し、無人となった飛行機をメイン州バンゴア空港へ操縦するブライアン。
無事バンゴアへ着陸するものの、その空港の雰囲気がおかしなことに気づく乗客たち。
機長、工作員、教師、ヴァイオリン奏者、薬物中毒、推理小説家、サイコさん、とバラエティに富んだ乗客たちが見たものとは・・・無人の、無機質で二次元的な空港だった。
そして彼らは近づきつつある異音に気づき、その正体を見る・・・
恐怖はないけれど、ハラハラドキドキの展開。SFありーの、ホラーありーの、ラブロマンスありーのと、密度の濃い内容?ラストは手に汗握る展開。

本書を読みながら飛行機には乗りたくない(笑)
クリスマス・プレゼント クリスマス・プレゼント
ジェフリー ディーヴァー (2005/12)
文藝春秋
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ディーヴァー初の短編集。
これまで長編のディーヴァーは何作も読んでいるけれど、細かい背景や心理描写がなくてもディーヴァー節は冴えるのか?と半信半疑で挑んだ。
帯に「どんでん返し16連発」(花火じゃないんだから(笑))とあるように、ディーヴァーと言ったらどんでん返し、こっちもそれを理解してるからストーリーを素直に読まない。
きっと返されて更に返してくるだろう、くらいの読みを働かせるものの、ディーヴァーも読者の気持ちを知ってるようで、そこを更に斜め横くらいに返す(笑)
完璧にヤられたのは「三角関係」だ。こちらの思い込みを存分に生かしてる。

夫を失った悲しみにくれる女性。「ジョナサンがいない」
ドラッグストアで強盗をし、人質を連れて逃げる犯人。「ウィークエンダー」
亡くなった夫の会社を立て直そうと奮闘する未亡人。「パインクリークの未亡人」
妻の浮気に疑心暗鬼になる夫。「宛名のないカード」
娘をストーキングする少年に激怒する父。「ひざまづく兵士」
そしてなんと言っても本書の目玉、書き下ろしのリンカーン・ライム「クリスマス・プレゼント」
それぞれに旨い。ディーヴァーを味わいつくすならやはり長編だな、という気はするものの、短編でも彼の良さを堪能。
ただしやはり軽い読み物になっているので、読み返すには値しないかも・・とは言いつつも楽しい読書の午後を満喫できた。
魔術師 (イリュージョニスト) 魔術師 (イリュージョニスト)
ジェフリー・ディーヴァー (2004/10/13)
文藝春秋
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原題は「The Vanished Man」
私はイリュージョニストよりもこっちの「消された男」の方が良いと思う・・

アッパーウェストサイドにある音楽学校で女子学生が殺される。
密室から忽然と姿を消した犯人はマジックの心得がある、と断定され、マジシャンのカーラの協力を得て、いつものメンバーが捜査に乗り出す・・・

さすがに5作目ともなると、私もどんでん返し慣れしてきてて、ディーヴァーにいつも味わわされる「え?うそ?!」が少なかったような・・
それに今回は相手がマジシャン、それこそ何でもアリなわけで(笑)
しかし一応ストーリーに破綻なく最後まで伏線を生かしきった筆致はさすがのディーヴァー。
最後のどんでん返しのため(?)に今一歩深く犯人像を描ききれなかったかも、と思うと残念。
そして初期のライムと比べて被害者の恐怖があまり書かれていない。
「ボーン・コレクター」で蒸気の管を見つめるT.J.の恐怖が未だに忘れられない。
それと犯人の描写を書かせたらディーヴァーに並ぶ作家は居ないんじゃないかなぁ。

「石の猿」の後、ライムシリーズ以外の作品を挟まずに続けてライムを書いた本書。
ディーヴァーが言うような「デヴィット・カッパーフィールド+ハンニバル・レクター」とまではいかないにしろ、かなりの強敵とライムを対峙させたのは確か。
石の猿 石の猿
ジェフリー・ディーヴァー (2003/05/31)
文藝春秋
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中国から米国への密入国を斡旋している蛇頭の「ゴースト」は、数十人を乗せた密輸船に同船していたが、その船がライムの推理によって、前もってアメリカ当局に察知されたことを知ると、悪天候の中、船を爆破し密入国者を船室に閉じ込めたまま船を沈没させる。
機転で船底の船室から脱出できた2家族は、必死に救命ボートで岸へ向かうが、彼らの脱出を知ったゴーストは証拠隠滅の為に自らも別の救命ボートを繰って彼らを追う。
辛くも逃げ切った密入国者、追跡を諦めてマンハッタンの隠れ家に篭るゴースト、そして彼らの残した痕跡を、アメリアとライムが追う。

船室からの間一髪の脱出、海での追跡劇、嵐の波間に見え隠れする敵。
私は溺れることに非常な恐怖心を持ってるので、これは身に迫って怖かった。
鼻や肺に無理矢理入り込んでくる海水や、波に成す術も無く翻弄される人間の描写がリアル。
自分の推理の甘さから、ゴーストの船爆破を予知できなかった(大勢の密入国者を殺した)ことを痛切に悔やむライムは、捜査に一層の力を入れる。

いつものディーヴァーの如く、読み出したら止まらない。
確かにどんでん返しに至るまでのご都合主義も目につくが、それもたいした問題じゃないと不思議と思えてしまう。(贔屓目だね)
「ディーヴァーにはどんでん返し」を前提に読んでる読者を欺くような返しの返しも面白く、一気に読み終えるのは勿体ない。
今作の最大の見場は沈没した密輸船に鑑識をするシーン。
海底30メートルの暗所、閉所にあらぬ妄想をもって怯えるサックス。そして彼女とライムとの間の苦悩がリフレインする。
さらに深まっているライムとサックス絆も見所。
聖なる怪物 聖なる怪物
ドナルド・E.ウェストレイク、木村 二郎 他 (2005/01)
文芸春秋
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老いたる名優ジャック・パインが自宅のプールサイドで語る自らの半生。
舞台はソコから動かず、一人称で書かれたインタビューから、三人称のジャックの回想へと移り、また一人称へ戻る。
時折挿まれるインタビュアーの視点、インタビュー中に意識を失うジャックを介抱する執事の言動や行動から、おー何かあるんだなーこりゃ、と思わせられて、非凡・裕福・寄生・成功・自堕落な彼の半生を読み進んだ。
展開が移るにつれ、シーソーが交互に傾くような感じ。ジャックの独壇場?それとも・・・
解説が言うように「衝撃的かもしれない結末」が待っている。
いいねぇ、この「かもしれない」ってとこ(笑)
目から鱗が落ちるような衝撃ではないけれど、これはなかなか面白い本だった。
「斧」と「鉤」もリストに加えておこう。
蜘蛛の微笑 蜘蛛の微笑
ティエリ・ジョンケ (2004/06/10)
早川書房
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形成外科医のリシェールは愛人を自宅に軟禁し、彼女が陵辱される姿を好んで観る。
田舎モノのアレックスは銀行強盗で警官を殺し、誰も居ない農家で姿を潜める。
何者かに拉致されたヴァンサンは、地下室に監禁される。

別々に始まった展開が、ある一点で交錯し、融合し、最後には大きな奔流となる。
170ページ足らずなのでスルっと読了。視点を変えるとこれほどまでに物事は違った形で見えるのか、と改めて思わされた。
このミスに選ばれたらしいけれど、これはミステリ、と言うより「究極的」ラブストーリー。
渇いた季節 渇いた季節
ピーター ロビンスン (2004/07)
講談社
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↑この「スティーヴン・キング絶賛!」の赤帯が強烈に目立つ一冊。
読もうか、否か迷ってたけどkingdowさんお薦めだったのでイっときました。

半世紀前に貯水湖として水に沈んだ村が、渇水のために姿を現した。
水中に長い間浸かっていた家のぬかるんだ床下から、人間のものと思われる骨が偶然発見される。
上司との諍いが元でつまらないデスクワークを強いられていたバンクスが、この人骨発見の捜査に出向かされる。
一方、この人骨が発見されたことで動揺を隠せない人気作家エイムズリーは、昔封印した自伝的な小説を再び手に取った・・

生々しい臓物湯気立つ死体ではなく、半世紀前の白骨体が中心で、戦慄とか恐怖とか嫌に凝ったミステリ仕立てではなく、なんとなくのんびり進む展開。
だからと言って退屈なわけではなくて、エイムズリーの回想的な一人称で書かれる第二次世界大戦中の村での出来事と、現在のバンクスと現地警察官アニーの捜査が効果的に交互に書かれている。ゆっくりした展開なのに、惹き付けられる感じ。
全てを明かされないまま語られる謎に満ちた過去の村での生活、戦時中の苦労の中でも見え隠れする閉鎖的な空間。
そして家庭に問題を抱えちゃってる中年刑事、曰くありげだけど魅力的で芯が強そうな女性刑事。
それぞれがアク抜けしてる。分厚いし登場人物も多いけどゴチャゴャ感がないんだよね。(バンクスは辛そうだけど、別に悲壮感漂うって感じじゃないし、アニーも孤独だけどそれを否定したり嫌悪したりしてなくて、自分の生活に満足してるみたいだし、それぞれ人生色々あるけど話の展開の邪魔になってない気がする)
分量はかなりのもんだけど、それが過剰だったり物足りなかったり感じない調度良いものになってる。
途中まではバンクスの捜査の展開が気になって、回想を読むのがもどかしく感じられたのに、後半はそれが逆転していた。
全てが明らかになったエピローグでエイムズリーが感じる後悔の念。「もしもあの時・・」と彼女がこれから死ぬまで感じ続けるだろう気持ちは、彼女がしたことへの罰なのかもしれない。
シンプル・プラン シンプル・プラン
スコット・B. スミス (1994/02)
扶桑社
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雪の大晦日、両親の墓参に出かけた兄弟と兄の友人の3人は、ふとしたことから墜落した小型飛行機を発見する。
その飛行機の中に遺体と、4百万ドルもの大金を見つけてしまった彼らは、安全にその大金を山分けする「プラン」を立てるが・・・

のっけから転落の道筋が見えていて、細かい状況が何にもまして彼らに圧し掛かるのがよく分かる。
「普通の人」僕ことハンク・ミッチェルと大柄で失業中の兄ジェイコブ、ジェイコブの粗野な友人ルー。
こんな人たちにそんな秘密は無理だって!と声を大にして言いたい衝動が(笑)
しかし、降って湧いた大金というものは人の運命や性格を十分変えうるものなのだなぁ。自ら稼いだ金ならこうはなるまい。
善良な人が誘惑に駆られたらこうなるだろう、というハンクの心理状態の推移が怖い。そして、追い詰められた人がとる行動も。
なんかスティーヴン・キングの「最後の抵抗(Roadwork)」を思い出した。(あれも何気に嫌な展開で地味めに進むんだよな)
読後感は戦慄とかじゃなく、じわじわーっと嫌な気分が込み上げた。
なぜか「自分だったらどうするか」と考えさせられてしまう。
拾ったものは警察へ、って言うのはやっぱりキレイ事かね?(^^ゞ
ダンテ・クラブ ダンテ・クラブ
マシュー・パール (2004/08/26)
新潮社
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南北戦争直後のボストンで猟奇的な殺人が起こる。
生きながら脳を、体内を蛆に喰われて死んだ判事。
逆さに生き埋めにされ、地面に突き出た両足を死ぬまで燃やされた牧師。
ダンテの「神曲」を翻訳していた「ダンテ・クラブ」の面々はついに気付く。
その犯行はダンテが地獄編で見た劫罰を模したものだ、と。

冒頭の「蛆と判事」はかなりのインパクト。生きながら蛆に喰われていくだなんて、想像を絶する恐怖だ。
しかし、その後の各登場人物紹介のような展開がしばらく退屈。
ダンテ・クラブの詩人達、「神曲」を出版する出版社、猟奇殺人を追う警察、ダンテ翻訳を阻止したいハーヴァートのお歴々・・場面展開がいまいちなんだよね、劇的ではないので。
更に言うと犯人の描写もラスト近くに薄く出るだけで、残念。
劫罰を行う描写はあるものの、あまりにも第三者的なものなので犯人の実態というか雰囲気というか、その病んだ部分があまり見えない。クラブの面々が苦心してする捜査は丹念に書かれているだけに、対比として欲しかった。

確かに本書を読むと「神曲」を読みたい衝動に駆られる。でも・・「神曲」は気楽には読めない書物だよねぇ(笑)実際読みづらいし?
小説「神曲」みたいなの、あればいいのに。
フィーヴァードリーム〈上〉 フィーヴァードリーム〈上〉
George R. R. Martin (1990/10)
東京創元社
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題名が萌えます。吸血鬼モノです。

多額の出資をして、アブナー船長の夢の蒸気船<フィーヴァードリーム号>を完成させたジョシュアは、奇行の人物だった。
行動は夜行、そして死因不明の殺人事件現場近くに何日も停泊を余儀なくさせる。
フィーヴァードリーム号の速さを内外に知らしめたいアブナーは憤り、ジョシュアに詰問した。
ジョシュアは「私はヴァンパイアハンターだ」と言うが、今ひとつ納得できないでいたアブナーは、あるヒントを手に入れる。
そしてジョシュアへ再度詰め寄る「お前は一体何歳なんだ?!」と。
そしてジョシュア自らのこれまでの生き様を独白する。

最初は、なんだかどうでもいい蒸気船の壮麗さとかの描写に辟易したけれども、このジョシュア独白の一章は珠玉。
一端に過ぎない壮絶な彼の生き方を聞いて、思いっきり味方になっちゃった。
もちろんアブナーもそうで、彼の目的「赤き血の乾き」から仲間(ヴァンパイア)を解き放つことに協力する。
しかし、ジョシュアの話と平行して語られてきたもう一人のブラッドマスター(血の支配者)、ダモン・ジュリアンとの対決も控えてる・・・
我々人間を「家畜」と見なし、乾きに襲われると容ヘなく喰い散らかしてきたダモン。
自らの「乾き」を「家畜」で満たさずに、代替の霊薬で癒し、人間との共存を図ろうとするジョシュア。
ジュリアンは言う、「お前達人間は、家畜の牛を殺して食うではないか?それを咎める奴がどこに居る。お前達と俺達と、していることになんの差がある?」と。確かにそうだ。
でも異種動物を殺すことなく、生きていける術が目の前にあるのに、それを退けるジュリアン。
優雅な外見とは裏腹に、その内面は果てしなく荒んでいる。闘い、破れ、そしてまた闘いを挑むジョシュア。そのジョシュアを不器用な友情でサポートする川の男、アブナー。

作中の川のように表面上は静かな流れの中にも、荒れ狂う内面の激情が見え隠れする文章に脱帽。
異種間の奇妙な(しかし固い)友情に魅せられて、逃亡から離別、そしてまた闘いへ、とその流れに逆らえない。
これは伏線を楽しみながら、是非一読して欲しい本です。
百番目の男 百番目の男
ジャック カーリイ (2005/04)
文藝春秋
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アラバマ州モビールの公園で首無しの遺体が発見される。その遺体には陰毛部分に小さな文字が書かれていた。

ワープト・ア・ホア ホアーズ・ワープ ア・フル・クォート・オブ・ホア ラッツ・バック ラッツ・バック ラッツ ラッツ ラッツ バック バック・・・

異常犯罪を担当するカーソン・ライダーとハリー・ノーチラスが事件の担当となるが、そこには様々な障害が。
カーソンとハリーが属するPSITと言う異常犯罪専門部署の署内での政治的問題、カーソンが隠している過去、検死を担当した病理学者が抱える問題、そしてなにより進展しない事件の真相。
二つ目の首無し遺体が発見されるあたりから、急速に物語が展開し始める。表面をなぞるだけだったカーソンの過去が徐々に見え始め、美しい病理学者アヴァの抱える問題もカーソンと絡み合う。
若手刑事ゆえに署内の政治に疎く、お偉いさんとの溝が深まるばかりの中、事件の真相を掴みかけたと思いきや、大きなわき道にそれてしまい、また振り出しに戻る・・
個々の問題が解決されるにつれ、犯人はコイツだろってだいたい分るんだけど、なぜ意味不明な文字をわざわざ遺体に書き残したのかが分らない。遺体にすべき人物の選別法の意図も同じく。
ラストに近づいてやっとその意図がわかり、唖然とした。まず最初は「あほや」と思ったけれど、その行為をした、もしくはせざるを得ない衝動を抑えられない犯人の過去を考えると段々と薄ら寒い思いが込みあげてきた。

ジャック・カーリイは本作がデビュー作のようで、以前はコピーライターをしていた人らしい。
この本を読む限り、カーソンの苦悩は続くようだし、ハリーとの名コンビぶりをまた読みたいなーと思ったら続編が出るようだ。(The Death Collectors)
本作の映画化権も売れてるらしいし、今後がすごく楽しみな作家だと思う。
マイン〈上〉 マイン〈上〉
ロバート・R. マキャモン (1995/02)
文藝春秋
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熱き60年代を過ごした41歳のメアリーは、全国に指名手配されている元ヒッピー。
トイザラスで見つけた「オモチャの」赤ん坊を生身の人間のように扱うが、ソレすらも彼女の思うとおりに育ってくれない。(よく考えるとこのへんで既に怖い)
人形の赤ん坊が夜泣きしたと思い込み、泣き止まないのでレンジで「焼き殺す(壊す)」程の激怒を内に持つ女。
一方36歳のローラはもうすぐ生まれる息子ディヴィッドの成長を慈しんでいたが、出産間際に夫の浮気を決定的な形で知ってしまう。
雑誌の告知広告を見て神の啓示と(勝手に)悟ったメアリーは、自分の赤ん坊が「ニセモノ」だから上手くいかないのだと思い、「本物の」赤ん坊を病院から盗み出そうと考える。
狙い定めた病院は、ローラが出産したセント・ジェイムス病院。
この2人は「自分のもの」を違う動機から真に欲している。当時のリーダーの子を失ってしまった代わりに、浮気をした夫の代わりに。

生まれたばかりの我が子を奪われた母親の慟哭は読んでいて悲しすぎる。
特にローラは夫の浮気から離婚まで考えてる状況なわけで、唯一の希望であった赤子を自らの手で魔女に渡してしまったのだから、その絶望たるや想像に余りある。
しかし赤子を攫ったメアリーも手前勝手にも赤子は「私の子」だと主張し信じている。
誘拐から12日経っても当局はメアリーを捕まえられない。嘆き悲しんでいるだけでは埒も明かない!とローラは行動に出るが・・・

ローラ→メアリーの追跡劇と、さらにメアリーに恨みを持ち彼女を殺せるなら側に居る赤子の命なんかどうでもいいと言う元警官(メアリーに負傷させられた過去あり)まで出てきて、二重(たまに並走、たまに抜け駆け)の追跡がスリリング。
ローラが恐怖心を抑えてメアリーに放った真実の言葉、
「あなたは嘘の塊だと思うの。あなたが自分に信じ込ませた最悪の嘘、それはディヴィッドをジャックのところへつれていけば自分がもう一度若くなれる、そう思いこんだことね」
は鮮烈。
お嬢さんだったローラが、身を切られるような不幸「夫の浮気」「息子の誘拐」で、怒りと勇敢さを糧に成長してゆく。
(小気味いいわけじゃない。なにしろこれこそ負のパワーだ)
マキャモンの作品は他に読んだことがないのでマキャモン評とはならないだろうけど、どうも視点がコロコロ変わるのにツイテいけない?
普通は「章」ごとに視点が犯人→捜査員→被害者→犯人、のように移ると思うんだけど、この作品に関しては「行」で変わってしまうので漫然と読めない。
映像的視点移行とでも申しましょうか?カメラがキャラをスイッチするように細かく描写が移りかわる。
これを理解できればかなりスピード感が出て面白いんだろうけど、慣れないもんで2、3行戻って読み直したりしてしまった。
しかし、メアリーとローラの対比は見事です。まったく違う生活をしてきたのに、私は2人がどこか似たような印象を持ってしまう。
都合の良さも見え隠れしたけど、ラストの展開はよかった。
しかしローラとメアリーの執念は凄まじいです。女の情念は怖いねぇ。
女性のこういう部分ってなんとなく理解できるだけに、都合の良さが感じられなければもっともっと恐怖に怯えたろうと思うと、ちょっと惜しい。
将軍の娘〈上〉 将軍の娘〈上〉
ネルソン デミル (1996/12)
文藝春秋
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軍内部の犯罪捜査部署、CIDの准尉ブレナーが、かつての恋人同僚と、たまたま居合わせた基地で起きた殺人事件の解決にかり出される。犠牲者はその基地の中将の娘だった。
中年(ブレナーは40代)の偏りがちで、元恋人への未練たらしい動向がなんとも鼻につくし、軍の訳の分からない上下関係、部署名、様式が・・・なかなか理解出来なくて頭を悩ませる。
けれども、抵抗を示す負傷がなく、全裸で手足を大の字に縛られた状態で窒息死させられた、武装した女性中尉。この謎の死因は気になる。何かの性的倒錯者の仕業なのか?計画的犯行なのか?顔見知りの犯行なのか?

中盤からはスピード感はないものの、それでも引き込まれる展開。
死亡していたアン・キャンベルは、父将軍が統率する基地内で奔放すぎる性生活を送っていた。捜査を進めるブレナーとサンヒルは、次第に彼女の破廉恥行動の原因を探り出す。
基地の様々な将校の思惑、父将軍の悲しみと怒り、地元警察との確執、どれをとってもかなりな難題だけれども、ちょっと皮肉っぽいジョークを飛ばしながら、ブレナーは優秀に解決して行く。
それにしても軍の縦社会はすんごいなぁ。上官の命令には服従、イエス・サー、イエス・サー、イエス・サー。
ブレナーが所属するCID(軍の犯罪捜査部)は、犯罪を犯したものならば、例えそれが将軍であろうとも逮捕できる部署。
縦社会の軍内では「特権」を与えられてるってこと?ブレナーの位は「准尉」。曹長の上、少尉の下。(でも准尉には4階級ある。ブレナーは最上級らしい)
Army、Navy、Air Force、と微妙に階級が違うけど、ブレナーはArmy(陸軍)なので、将軍を逮捕となるとその差は歴然。

この小説で一番心に残る言葉があった。「私には騎士は必要ない。私の騎士は私自身、私のドラゴンも私自身、そして私は私自身の城に住む」
色々な解釈は出来ると思うんだけど、この言葉を聴いてあなたは何を思う?
とても胸に響いた。
「襲撃者の夜」
4月30日発売 扶桑社

「黒い夏」から約1年ぶりの新刊発売。
リゾート地で「食人族」に襲われた家族。極限世界を描くケッチャムの異常小説!ってことですが、ん?「オフシーズン」?
詳しくは扶桑社ニュースを→http://www.fusosha.co.jp/book/img/new.pdf
黒い夏 黒い夏
ジャック ケッチャム (2005/06)
扶桑社
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1965年のニュージャージー、スパルタで不良少年のレイはさしたる理由もなく、友人と恋人の前でふたりの見知らぬ女子大生を射殺する。
一人はその場で死亡、もう一人は4年後に死亡した。レイは容疑者にはなるものの結局事件は迷宮入りに。

登場人物の感情に同調してまもなく、容赦なくその人物が死んでいく異様な現実感。
しょっぱなからレイがアブナすぎで先の予想が出来ることが怖い。美貌の持ち主で自意識過剰、意のままに出来るとりまきしか身近に置かず、外見の重要さが第一。薄っぺらな人間が若いときにだけ限定で持てる危険な(?)魅力で他の人間を動かせると、信じている危うさ。
ケッチャムにしてはかなり長い583ページという分量。キング並みに細部まで個々の登場人物が語られていて、レイとティムとジェン(冒頭の事件を一緒に体験した三人)やチャーリーとエド(レイの事件を担当した刑事)など章ごとに主観が代わってどちらかと言うと展開遅いかも。
ただ。ただです。これだけ細かく書かれた人々の行く末が、この本の結末でどうなるかなー、絶対ケッチャムだからこうなるよなーと分ってて読むのはそれだけでも結構キツイ。狙ってやってるんだと思うよ、この分量は・・・(泣)

人の価値に「この人は生き残ってしかるべき」なんてものはないと知ってはいるけれど、それでもやはり創造の世界ではヒーローやヒロインは死なないもの、と何故か小さい頃から思わされていた。(そうでしょ?)
そして、今のほほんと平和に生きている私は、災害時にでもなんとか生き残れるだろう、と根拠のない自信を持っている。
でも、実際はきっと真っ先に死んじゃったりするんだ。大概の人は、なんの物語もなく、あっけなく、死ぬんだと思う。
これを思い知らされるから、ケッチャムが好き。「生きる」ということに焦燥感をもたらせてくれる作家はケッチャムだけだと思う。
ハンニバル・ライジング 上巻 (1) ハンニバル・ライジング 上巻 (1)
トマス・ハリス (2007/03)
新潮社
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戦争による究極の状況から生き残った少年レクターは、その経験から声を失った。
彼は叔父に引き取られ、叔父の美しい妻「紫夫人」に徐々に心を開く。
そして青年へと成長したレクターは、妹を殺した輩に次々と復讐を・・・

前作「ハンニバル」でレクターがフィレンツェからアメリカへ渡る機上で見た夢。

バスタブの泡、温められた水、菜園のナス、幼いミーシャの瞳、糞便の中の乳歯

断片的に垣間見た彼の過去に、とても想像力を刺激させられた。
トマス・ハリスがレクターの過去話を書くと聞いた時、一番に心配したのは、「語りすぎ」るのではないか?と言うこと。
レクターの異常性の由来を事細かく説明されでもしたら、彼に対する畏怖が損なわれてしまう。それが怖かった。

戦争で家族を失った経験や、妹を残酷にも殺されたことが、彼の異常性の原因です、とは書かれていない。
ハリスは、レクターがいつ、怪物になったのかは明らかにしなかった。ああ、どんなに安堵したことか(笑)

本書は読み物としては弱いと思う。その後のレクターを知っているだけに、誰が勝者か、その後どうなるか、が分かるからだ。
「レッド・ドラゴン」「羊たちの沈黙」「ハンニバル」のレクターを好きでこそ、の本書だ。
蜂工場 蜂工場
イアン バンクス (1988/03)
集英社
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スコットランドに住む16歳のフランクは足が悪く杖が手放せない父親アンガスと二人暮し。
アンガスの方針で戸籍に届けられていないフランクは、父親から教育を受けて育った。そして独自の法則で生活を几帳面にこなして行く。
場所やモノに自ら名前を付け、小動物を殺すことを厭わない。
そんな彼の日常に、兄のエリックが精神病院から脱走した連絡が入る。

読み進めると父親のセリフじゃないが病院に入るのはフランクおまえじゃなかったのか?と言いたくなる。
次第に明かされるフランクが起した3つの殺人。
どれもフランク自身が幼い時のもので、彼が如何に頭脳明晰で周到に殺人を犯し、大人の心情を巧みに操って周囲の目を欺いていたのかが分かって恐ろしい。
そして頻繁に電話をかけてきては意味の無い言葉を繰り返したり、激昂したりするエリックの脱走の意図も分からない。
3歳の頃、飼い犬に怪我を負わされたフランク。足が不自由なアンガス。フランクの友人で小人のジェイミー。犬を焼き殺し精神病院に収容されていたエリック。
この小説には身体的、精神的欠損をもった人物しか出てこない。
人は何かしら欠損した部分を持ち合わせていると思うんだけど、その象徴なのかな・・・
フランクやエリックの異常性が、もって生まれたものなのか、環境によるものなのか、それがとても気に掛かる。

表紙の表題のすぐ下に「結末は、誰にも話さないでください」と書いてある本書。

淡々とフランクの異常な青春が書かれ、エリックの発狂の原因もサラっと語られる。表現がグロくない。・・・だから余計に想像力を掻き立てられる。
確かに何もカタルシスを与えてくれない、といえばそうなんだけど、私には妙に納得できる部分があった。
12の地獄を作り出す憎悪は、誰の中にもあるのかもしれない。
戦慄の眠り〈上〉 戦慄の眠り〈上〉
グレッグ アイルズ (2004/04)
講談社
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ヴェトナム戦争で写真家の父を亡くしたジョーダン・グラス。
父と同じ写真家になった彼女には、一年半前に失踪した双子の妹ジェーンがいた。
写真集を出す予定で訪れた香港の美術館で、ある絵画を見た彼女は愕然とする。
「眠る女」と題された、一般的には「死体」を描いているとされるその作品には、それまで死亡したものと諦めてきた、自分とそっくりな妹が描かれていたのだ。
冒頭は説明が多すぎ?な展開で少しげんなりするが、彼女がFBIの捜査に加わると俄然スピードが増す。
本来なら被害者の家族が捜査に加わることなど皆無だと思うが、ジョーダンはジェーンに瓜二つの一卵性双生児。
一連の「眠る女」を描く画家が、連続失踪事件に関わっているとしたら、モデルにした女性にソックリのジョーダンは捜査の切り札になる、と当局は踏む。
育った家庭、早い父の死、双子の確執、とジョーダンを作る環境は複雑だが、彼女にはそれ以外にも多くの謎がある。
主人公のジョーダン・グラスは非常に魅力的な40歳の女性だ。強さが良い具合に表現されている。
冷静な観察力と裏腹に湧き出す激情も、女性ならでは、な感じで共感が持てる。

作中で問いかけられる3つの質問。
「あなたが過去にした最悪のことは何だ?」
「人生でもっとも誇りに思った瞬間はいつか?」
「あなたの人生に起きた最悪のことは何か?」
これは自分を見つめ返すようで、非常にイヤな質問だ。
私は最初の質問にしか答えが見つからなかった。
他の二つはこれから答えが見つかるだろうか?
なんにしても客観的に、なんのヴェールにも包まずに自分を見るのは時として残酷かもしれない。
ジョーダンはこの質問に直接は答えていないが、作品を読み進めるうちに、おのずと答えが見えてくる。
彼女の過酷なこれまでの人生がとても哀れだ。
しかし・・・
後半の、犯人の独白?めいた展開は「神の狩人」のブラフマンか、こいつは(笑)と思わせてくれる。
アイルズの書くサイコパスは饒舌なのが玉に瑕・・・
そして最後の最後でデウス・エキス・マキナ!ああ、その章は要らなかったのでは?
それまでの展開やジョーダンの苦悩は、読者の同情は、どうなっちゃうのさ・・。あまりにも都合よすぎじゃないのか?
ラスト20ページでこんなに萎えてしまうとは・・・それまでが良かっただけに、本当に惜しい。
青い虚空 青い虚空
ジェフリー ディーヴァー (2002/11)
文藝春秋
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護身術のHPを持ち、公演までするある女性が、何者かに惨殺される。心臓をナイフで貫かれて・・・
犯人は、その女性の生活や行動パターンを熟知し、EメールやHPをハックしたクラッカーであると判明。
市警は服役中のハッカー、ジレットに捜査の協力を要請。のっけからコンピュータ用語が所狭しと並び、5年前だったら半分以上理解できない内容。
ほぼ4分の3までで、ディーヴァー、小出しにどんでん返しを出す出す(笑)
ジレットのハッカーとしての優れた能力と、市警の担当刑事ビショップの刑事としての優秀さが相まって、文句なしに面白い。

本の中で犯人が使う「トラップドア」と言うハッキングプログラムは、ネットの危うさを警告している。
オンラインして居る人間のプライバシーは無い?多分このトラップドア存在していないんだろうけど、それも数年も要さずに、こういうプログラムは作られてしまいそう?
そしてそう思わせるディーヴァーの取材力、題材の研究は素晴らしい。この人一年置きにライムシリーズ、新作と出版してるけど、いったい何時取材してるのだろうか?

そしてディーヴァーの登場人物は、実に愛すべき人物が多い。主人公のジレットも、ズボンからいつもシャツをはみ出させている市警のビショップも、ライムやトム、サックスと同じように「次回作も見て見たい!」と思わせる描写。
そしてやはり今回も、犯人の内情にも同調できるくらいの、内因表現に脱帽。
こうじゃないと犯人はただの平板な「悪」でしかなく、作品の重さが違うように思う。

犯人が何故「青い虚空」(『the blue nowhere』は、電脳空間サイバースペースを意味するディーヴァーの造語)にのめり込んで行くようになったのか、どうやって他の人間にすんなりと成りすます技を磨いていったのか、細かい描写で納得できる。
もちろん、追い詰める側のジレットの心情や別れた妻との葛藤、担当刑事たちの細かい家庭事情なども。それだけ書いてもクドくならないのがさすがディーヴァー。
コフィン・ダンサー〈上〉 コフィン・ダンサー〈上〉
ジェフリー ディーヴァー (2004/10)
文藝春秋
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四肢麻痺の犯罪学者リンカーン・ライムが今回追うのは、棺の前で踊る死神の刺青を持つ暗殺者「コフィン・ダンサー」。
そしてその暗殺者が狙うのは大陪審での証言を控えた民間航空会社の社長パーシーとその夫。
周到な計画で標的に襲い掛かるダンサー。わずかな手がかりからダンサーの先を読もうとするライムとサックス。
互いが裏の裏を読み、読者をも欺くいつものどんでん返しは最高。
ダンサーが拘った過去の事件で何かを失くしたライム、自分の会社を子どものように守ろうとするパーシー、そんな二人を見てライムへの愛情を確認するサックス。
べたべたではないロマンスを散りばめて、二転三転するストーリー展開。伏線がいたるところに張られているので息抜く暇もない。

ディーヴァーが描くキャラクターの思考に驚くほど共感できる。
ライム、サックス、パーシーのように、私もひとりで考え、物事の方向性を決めてしまうクセがあるが、結論に至るまでの思考が、まるで自分の脳内を探られているかのようで非常に居心地が悪かった(笑)
嗤う伊右衛門 嗤う伊右衛門
京極 夏彦 (2004/06)
中央公論新社
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改訂版四谷怪談。

中盤からはその世界観に引き込まれ、一気に読了。
中々日本のホラーも良いもんだと思いつつ、やはり人物の書き込みはキングには及ばないな、とも思う・・(贔屓目なんだろうけど(笑))
私がおぼろげに知ってる四谷怪談は、ダメ男の伊右衛門と貞淑だけがとり得の岩、という取り合わせだったんだけど、この「嗤う伊右衛門」では完全な純愛として書かれている。
純愛過ぎてお互いが理解し合うのが難しいような思慕。互いに正しいが故に、同じ方向を見てしまって見つめあえないもどかしさ。
巻末まで伊右衛門は嗤うことをしない生真面目さなんだけど、ラストで彼は二度嗤うのだ。
最初はぞっとするような嗤い。
そして二度目は、切ない思いを読者に抱かせる嗤い・・・
正しさと汚さを対極に描き出して、その対決までも見せる場面は、キングの「デッドゾーン」でのジョニーとスティルスンのそれによく似ている。
高潔に生きるということは、かくも難しいものだ。
そして世間には理解してもらえない悲しさも含んでいる。
岩の高潔な考え方には共感出来るものの、客観的に見ると「正しいことはいつも正しいわけではない」と言う思いが浮かんでしまう。
媚びること、巻かれること、諂うことに慣れきってる現代の私には、岩と伊右衛門は眩しすぎる。
ドラゴンの眼〈上〉 ドラゴンの眼〈上〉
スティーヴン キング (2001/02)
アーティストハウス
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この本はキングが愛娘ナオミの為に書いたことで有名だが、最初から出版されたわけではなく、ナオミと(「タリスマン」で共作したピーター・ストラウブの息子)ベンのために、彼らの名前を付けた登場人物を活躍させ、限定版を作ったのが始まり。
別の題名がついたその本を買えたのは、抽選に当たったごく一部の人。熱狂的なファンの願いと出版社の要望で『ドラゴンの眼』としてのちに出版された。

手にとって思うことは、その装丁の美しさ。いつもは藤田氏の(ミザリー等の)ちょっと怖い装丁に慣れていたので、新鮮。

良くも悪くもない平凡な王ローランドと美しく優しく聡明な王妃サーシャが結婚し、息子長兄ピーターと弟トマスが生まれた王国デイレンでのお話。
そこに何百年も生き続けた「悪」の化身、魔術師フラッグが加わり、彼は王に使え、デイレンを恐怖に突き落とそうとなにやら画策している。

子供向けとは言い難い内容で始まるこの物語は、大人の醜悪さも意地悪く書き込まれている。とは言え細かく展開する物語に、きっと子供も大人も引き込まれること間違いなし。
ラストは子供向けファンタジーといえども、いつものキング節で圧倒された。
ダーク・ハーフ〈上〉 ダーク・ハーフ〈上〉
スティーヴン キング (1995/10)
文藝春秋
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「ミザリー」「骨の袋」と共に(味付けはそれぞれ違うけど)作家モノ三部作。
作家サディアス(サド)・ボーモントは人気作家「ジョージ・スターク」は自身のペンネームであることを公表し、葬り去ることにした。
そんな中、キャッスル・ロックで起きた凄惨な殺人事件現場にサドの指紋が発見される。
キャッスル・ロックの保安官と言えばアラン、アラン・パンクボーンがサドの自宅に現れ、任意同行を求める。
訳が分からないサドはアランに説明を求め、上記の事実を知り愕然とする・・・。
サドのアリバイは完璧で、サドにも身に覚えが無い。しかしサドの指紋を「持つ」犯人は、「ジョージ・スターク」公表絡みの人物を次々に巻き込んで行く・・・。
冒頭のサドの幼い頃の脳腫瘍手術の描写が恐ろしくて、頭のなかでリフレイン。
でもキャッスル・ロックものは懐かしい人物に出会えるので、何故か同窓会気分でうれしい。が、読み順を間違えると一気にネタバレの危険性がある。
まず「デッド・ゾーン」と「クージョ」は何より先に読まねばならない。何故ならその後のキャッスル・ロックもので全てネタバレだから。ジョー・キャンバーのセントバーナードとフランク・ドットはキャッスルロックの歴史に深く刻まれた傷なのだ。

「痩せゆく男」はキングはR・バックマンとして書いた最後の作品で、これを最後にキングはサドと同じように「R・バックマン」を葬っている。
これにインスピレーションを得てのこの「ダーク・ハーフ」、と言う経緯を知ってると、なんだか薄ら寒い内容・・・。
まぁキングの場合はバックマン名義だろうがキング名義だろうが、扱う内容が180度変わる、なんてことはないわけだが。

ペンネーム「スターク」に脅迫され、スターク名義で小説を書けと脅されるサドですが、彼は葬ったペンネームで書くことを頑なに拒む。
そしてスタークは現実世界での肉体が徐々に蝕まれ、腐敗していく・・
幼い頃脳腫瘍を患ったサドの脳内から、当時の医師たちは恐るべきものを発見していた。
脳内に散らばる目玉、爪・・・まるでサドが双子の方割れを体内で吸収したかのように。

今回ばかりはいくらキングでも「在り得ない」ことは「在り得ない」ままだった。
納得できないことに変わりは無いものの、ラストでのサドとスタークの攻防はハラハラする。
サド、スタークを追う形でリズ、アランの展開が章ごとに交互に書かれて、映像的に両側を見てるような錯覚。
この辺はさすがに上手い。ただし・・・あの終わり方はどうなの?それでいいの?!
題材が良いだけに、違う展開も面白かったかも?と悔やまれる。
デスペレーション〈上〉 デスペレーション〈上〉
スティーヴン キング (2000/11)
新潮社
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のっけから凄い勢いなので要注意。
キングのいつもの手法で、ある一家の日常や家族それぞれの感情を綿密に描き(これで感情移入バッチリ)、ある出来事を伏せ(これで掴みはOK)ながら物語は進む。
そして・・・悪魔のような警官が彼らを襲う。理不尽な暴力。溢れ出す圧倒されるほどの悪意。
旅行中の夫婦、4人家族の一家、一人旅の作家、それぞれがどうにも逃げられない状況で警官に拉致されて鉱山町「デスぺレーション」へと連れ去られる。
コヨーテなどの野生動物を操るかのようなその警官は、一家の幼い少女をあっさり殺し、夫婦の夫をも殺す。
妹を殺されたディヴィッドは「ある事件」から目覚めた神への祈りを試みる。神の声は聞こえるのか?
警官の人物像の書き込みはまさにキングで、うつろな眼が印象的。

拉致された一行はディヴィットの機転により牢を抜け、町から出ようと試みるが、警官に命令されたかのように行動するコヨーテやハゲワシ、サソリやクーガーに阻まれ、既に廃業していた映画館へと集まる。
作家のマリンヴィルを追いかけてきた編集者のスティーヴと、ヒッチハイカーのシンシアも合流し、それぞれ自分達が経験してことを話し合うが・・町から出られない。人間とも思えない怪物に追い詰められ、対抗するすべが今のところまったくない。
しかし気になるのはディヴィットの存在。純粋に純粋に、ディヴィットは神の存在を信じているのだ。
マリンヴィルが持っていた携帯電話は、ディヴィットが持つときだけ通話が出来た。
映画館で食糧を集めてきたディヴィットは「たくさんあるから大丈夫」という。言葉どおり、皆が手を出しているにもかかわらず、箱から少しも減らないリッツのクラッカー。

生き残った人々それぞれの、眼に見えない絆の深さや、警官を具現とする「悪意」とディヴィットの言うところの「神」の意図。
全てがハッキリと映し出され、クライマックスに向かって怒涛の筆致。
「神は残酷だ」私もそう思う。でも傲慢だと言い切ることは出来ない。
その程度の神なら、宗教はとっくに廃れているだろう。
神の意図はもう一段上から為されている、と言うこと?
この辺は宗教を持たない私にとっては未知の世界なんだけれど、マリンヴィルのディヴィットへのこの言葉がキーワードかもしれない。
「神は愛だ」
クリスティーン〈上巻〉 クリスティーン〈上巻〉
スティーヴン キング、深町 真理子 他 (1987/12)
新潮社
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第一章はニキビ面で学校の不良どもから苛められるアーニーの防御役ともなる、親友のデニスの観点から一人称でアーニーと58年型プリマス「クリスティーン」の出会いが語られる。
突然のクリスティーンとの出会いから、如何にしてアーニーが彼女にのめり込んでいったのか、クリスティーンがアーニー以外に与える嫌悪感、曰く有り気なクリスティーンの歴史などをクリスティーンにイカれていないデニスの視点で、アーニーへの友情織り交ぜながらストーリーは進む。
アーニーが施す奇妙な整備と、アーニーの記憶の欠落。友人や両親が恐れを成すほどのアーニーの性格の変化。
余談だけど、この58年型プリマス・フューリーって、本当に何かを企んでそうな悪い顔つきしてる。
日本車の顔(車を真正面から見ると)ってやんわり柔和系が多いんだけど、古いアメ車はゴツくて、ニヤリ、みたいな不敵面してるんだよね(笑)
上巻後半部から第二章(三人称)に移り、登場人物それぞれの意思が伺われ、誰もが(今ではアーニーまでも)クリスティーンに対して嫌悪感を隠せない。
クリスティーンに関わるようになってから、アーニーの外見の欠点(ニキビ)は解消され、学校一番の美女、リーがガールフレンドになったりするんだけど、リーは自分をおかしいと思いながらも車に激しく嫉妬してしまう。
クリスティーンの以前の持ち主のように腰痛持ちになってしまうアーニー。
自分がどこまで整備したのか漠然としか分からないのに、着実に整備、新品同様になっていくクリスティーン。
アーニーを巡る愛情を目の当たりにするとエンストを起すクリスティーン。
彼女を逆恨みから叩き壊した町の不良を、弄りミンチになるまでひき殺すクリスティーン。
幼い頃から両親に支配されるだけだったアーニーの変化やそれに対する両親の動揺、アーニーの恋人リーに横恋慕しちゃいそうなデニス。

見えない結末の行方が気になって読み進めてしまうんだけど、これは私が男性だったらもっともっと面白く読めた一冊なのかもしれない・・・。
今回のラストの余韻も救いがあるのか無いのか、キングらしく微妙。
やはりこれは「車」に対しての思い入れの深さによって恐怖の度合いが違うと思う。
そういうわけでそれほど恐怖を味わえなかったんですが、本書にもほんの端役にまで名前を付け、人間としての肉付けをしてあるのはすばらしい。
ワンシーンしか登場しない人も、そうでない人も、ありありと魅力的に描かれている。
如何にも身近にありそうな場面設定と登場人物。恐怖はいつも傍らにある。
ダ・ヴィンチ・コード(上) ダ・ヴィンチ・コード(上)
ダン・ブラウン (2006/03/10)
角川書店
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またしても早朝の電話でたたき起こされるロバート・ラングドン。
(この人はあれですね、「ハリス・ツイードのハリソン・フォード」って言うよりもジョン・マクレーンだね)
ルーブル美術館で館長が殺害され、その晩館長と面会の約束があったロバートは捜査の協力を求められた。
遺体の傍らに残された暗号、遺体の奇妙な体位。ロバートは館長の孫で当局の暗号解読者のソフィーと共に、暗号に隠された謎を追う。

平凡な博識者ロバートのキャラは前作同様ユルい感じで私は好きだ。またしても相棒に女性、と言うのはなんとなく釈然としないが、彼女もあまり(ヴィットリア同様)女々しいところがないのがいい。
人物が前作よりもぼやけて見えるが、これだけの薀蓄が詰まってて且つ、個性が立つキャラが揃ったら辟易するだろうし、全体としての調和は良いのかも。

聖杯の秘密をダ・ヴィンチの「最後の晩餐」をもとに紐解いてゆく中盤は圧巻。あの筆致に抗うことなど出来ない。
推理小説としては若干弱いと思うし、どんでん返しも予想の範疇。しかし場面展開は(多少の無理はありつつも)素晴らしい。
ラストの展開はともかく、あの中盤だけは何度でも読み返したいと思う。(私はほぼ無宗教だが、キリスト教圏の人が読んだらどう思うのだろう)宗教という枠を持たずに本書を読めたのはやはり幸いだと思う。
ダン・ブラウンは次回作を執筆中らしいが、本書以上に知的好奇心を満足させてくれると期待したい。
天使と悪魔 (上) 天使と悪魔 (上)
ダン・ブラウン (2006/06/08)
角川書店
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早朝の電話でたたき起こされたハーヴァード大教授ロバート・ラングドン。
宗教象徴学を専門にする彼は電話の相手に送られたFAXの文字を見て愕然とする。
双方向から読めるその文字は
「イルミナティ」
マッハ15の宇宙飛行機でボストンから1時間でスイスのジュネーヴへ飛ぶロバートと共に、冒頭から否応なくストーリーに引き摺り込まれる。

テーマが「宗教」と「科学」なわけで、私の疑問「神は本当に慈悲深く全能なのか?」には答えてくれるだろうか?

無知な私には「へぇ〜」「ほう〜」の連続な薀蓄がこれでもか!と語られるが、決して嫌味な印象はない。
セルンの所長コーラーも、殺害された研究者ヴェトラの娘ヴィットリアも、ヴァチカンのスイス衛兵隊長も、なにより主人公のロバートも全て魅力的な人物ばかり。
魅力的な人物にタイムリミットサスペンスと薀蓄・・・(まるで「ボーン・コレクター」)場面展開も絶妙なタイミングで、ハマったら徹夜覚悟だ。
まるで映画のようなダイナミックな展開、700ページもかけて1日分しか語られていないのに、このスピード感、嫌味なく挿入されるロマンス、好奇心を誘う歴史と科学の薀蓄。
クライマックスと思しきところに差し掛かっても、残りのページ数を思うと「これは何かあるな・・」と思わせられ、ページを繰る手を止められない。

寝食忘れて読書したのは久しぶりだ。
これは「読め!」